そこには風が吹いていた

登紀子 加藤

そこには風が吹いていた
たえまなく音をたてて
遠い昔の物語が
語りかけてくるこの街に
古い上着を脱ぎ捨てるように
急ぎ足で歩いてきた
大切な過去たちを
どこかに置き去りにしたままで
獲物を追いかける 狼のように
走り続けてる時だけ
生きてると感じてた
どうして泣けてくるんだろう
まだ旅の途中なのに
探し続けた星たちが
砂粒のようにみえてくるよ

思い出を禁じられた
孤独な亡骸のように
美しいこの街を
今ー人で歩いているよ
忘れられた石畳に
咲きこぼれた花びらが
きらめきを惜しむように
風の中で踊っているよ
君はまだ僕を忘れていないか
ぽくはまだ生きているよ
君のかがやきの中で
どうして泣けてくるんだろう
たどりついたこの街で
求めたはずの未来たちが
遠い過去のように見えるよ
求めたはずの未来たちが

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