イミテーションの木
Kazutoshi Sakurai
導火線の火が シュって音を立てて砂浜を這う
その細く強い光
一瞬 静寂がふっと夜を包んで
浮かび上がる あの娘の横顔
風に乗って響いてく音 火薬の匂い
打ち上げられた花火に 夢を重ね見上げていた
深く沈めた記憶 向こう岸に捨てた憧れ
青臭い恋のうた
時間は残酷
もう魔法は解けてしまった
過去ばかりが綺麗に見える
現在がまた散らかっていく
リニューアルしたビルの中
イミテーションの木が茂る
その永遠の緑をボーっと見ていた
世界中に起こってる悲劇と比べたら
僕の抱えたモヤモヤなど
戯言だってよく知っている
イミテーションの木の下を
少年が飛び跳ねている
それを見た誰かの顔がほころぶ
情熱も夢も持たない 張りぼての命だとしても
こんなふうに誰かを そっと癒せるなら
導火線が今 シュって音を立てて胸に点る
この確かな強い光
無機質なそのビルの中
イミテーションの木は茂る
なにかの役割を持ってそこにある
イミテーションの イミテーションの
張りぼての命でも人を癒せるなら
本物じゃなくても君を癒せるなら