眼帯兎と包帯羊のMarchen
宝野アリカ
片眼の兎追い少年は
裏庭の柵越え
森に迷い込む
飛び散る木漏れ日の精たち
色とりどりの花
目が眩んでゆく
触れば怪我する
毒茸の群れが
嗤って転がる
絡まる蔦の葉
樫の根に掴まれ
足を滑らせた
空が罅割れ
墜ちる苔の上に
そっと降り積もる
光る胞子 裸の胸に
少年は夢に凭れ
忘れてゆく
続くべき日を
それはいけないことではなく
覗き見るは兎 赤眼の輝きで
忍び寄るは羊 三本肢で
森の底は怖い だけど魅惑に満ち
何かを失くしても
抜け出せはしない
行こうもっと奥へ遠くへ
君もきっと気に入るから
ママもいないひとりじゃない
誰もぶたない君を
蜜蜂溶けた甘い芥子のお茶を飲み
駒鳥詰めた美味しいパイを食べよう
綺麗な蝶々が
貰いにやってくる
君の良い心
蹌踉ける羊追い少女が
白い靴を汚し
森に入り込む
幸せの頬翳りもせず
翼生えたように
どこまでも先へ
微風つなげて
やさしく迎えよう
崖の向こうがわ
帳が降りても
本当の暗い闇
感じないように